自然豊かな環境で、読書を楽しむひとときを。
農・食・文化・芸術・科学をメインに揃えたKokonoe Green Libraryの書籍をご紹介いたします。
店内の蔵書は自由にお読みいただくことができ、お気に入りの書籍のお持ち込みもOKです。
伏流水が流れ、雄大な山々に囲まれた里山で、自分だけのひと時をお過ごしください。
Bon voyage!
私は戸隠に移住して、この春で3年になります。あっという間に過ぎていった印象があります。
その間、常に考え、地域おこし協力隊での仕事・活動で大切にしてきた問いかけがあります。
・移住するとはどういうことだろうか?
・移住者とは、地域にとって、そもそもどういう存在だろうか?
・移住者は何をするべきか?逆にしない方が良いことは何か?
・移住者である強みは何か?
・移住者が実行するいかなることに価値があるのか?
問いかけを羅列すると、ビジネススクールで教わったり、事業企画・運営に関するフレームワークにも見えてきます。
地域社会は、独特の風潮と趣があります。
日本のみならず、世界中に "地域" "地方" と呼ばれる場所が存在します。
そこでは、いわゆる "都会" "都市" とは全く異なった、あるいは、似て非なる価値観とルールが存在するケースも多いと思われます。
私自身、移住して間もない頃、何もかも目新しく、感銘を受け、ポテンシャルを感じていた一方で、戸惑い、ギャップと隔たりの印象も、同居していました。
しかし、ギャップは見方・捉え方を変えれば、強みに転じることができます。
戸惑いは馴染んでくれば、都会生活では得ることができない強みになり得ると、直感しました。
その土地の独自性を肌で感じながら、体験度合を深め、スキルアップを目指していくこと。地方で暮らす大きな魅力の一つだと思います。
理想的には、「移住者であること + 移住後の経験」を融合させ、強みに昇華できれば、"地域" と "都市" の双方において強みを発揮できるのではないか、と考えました。
①企画制作:「つくる」
②情報発信:「はなす」
③企画実行:「うごく」
①~③の一連の流れは、仕事のフレームワークとして基本的なもので、ある程度、どこに行っても共通するスタンスではないかと思います。
その中で、大事なのは、自身の軸であり、拠り所となる価値観は何か、という点だと思います。
今から10年以上前、20歳になる少し前、海外での仕事にも精通するビジネスリーダーの方から、こんなことを教わりました。
「これから日本を含め世界は、間違いなくボーダーレス化が、さらに進むと思います。情報の分野では、随分前から発生しています。グリッド・コンピューティングの技術など、ユビキタス社会は目前に迫っています。そんな中であっても、世界を視野に入れて働くのなら、自分が日本人として何者であるかをよく知ることが重要。孫子に言う "敵を知り、己を知れば、百戦は危うからずや" の考えです。さしあたり、『代表的日本人(内村鑑三)』『茶の本(岡倉天心)』『武士道(新渡戸稲造)』あたりの有名な書籍は必読でしょう。」
当時、まだスマホは普及しておらず、ガラケーが当たり前だった2006年頃の話しです。
mixiやgreeといったSNSの人気が社会現象となり、ほとんどの人が、家に帰ってパソコンを確認するか、図書館や漫画喫茶からインターネットにアクセスして楽しんでいました。
友人・家族との携帯を使ったコミュニケーションと言えば、メールが主流であり、着メロや待受け画面に凝る人も多い時代でした。
当時の心境を今振り返ると、変化が年々大きくなっていく社会の動きを感じながら、200万人以上の都市のオフィス街を歩く最中、地方で農的な暮らしや農業そのものに従事したいという気持ちが、内面で成長していた気がします。
その間も、地域は独特のリズムと速度で営みが続けられてきたことは間違いありません。
私の場合、人生のサイコロはこの10数年で大きく数回転がりました。
全ての期間、豊富な学びと大きな刺激がありましたが、この3年の戸隠での仕事と暮らしを振り返ると、その濃密さは、際立っていると感じます。
"地域" "地方" は、目的・目標を持って取り組めば、そこはまさに "知恵の泉"。
Iot社会であっても、未だカバーしきれない数々の生きた人々の営みがあり、豊かな天然資源と環境は何物にも代え難く、歴史・文化・技術、そして口頭伝承にいたるまで、「知」のオアシスだと思います。
本書『明日の地域をみつける』は、信州大学「COC事業(地域再生・地域活性化の拠点としての大学活用)」のうち、「地域戦略プロフェッショナル・ゼミ(通称プロゼミ)」の集大成となるものです。
プロゼミは2014~2017年度に実施されました。
地域資源の発掘、価値転換、次世代への継承等を目的とした、「中山間地域の未来学」「芸術文化の未来学」「環境共生の未来学」の3講座と、ローカルイノベーター育成を目的とした、少人数限定の「信州の未来学」が一般公募の形で開講されました。
私は、「中山間地域の未来学」の第3期(2016年度)の受講生となります。
アカデミックでありながら、ローカルにどっぷりと浸かり、様々なスキームを活用して、地域の持つ魅力・価値・潜在力を、見える化させていく手法には、これまで感じたことが無かった、知的好奇心が大きく刺激される感覚があり、今もなお、当時の受講生同士の熱のこもったディスカッションや担当教員の先生方の講義が印象に残っています。
当時の様子を懐かしく振返りながら、写真で少しご紹介させて頂きたいと思います。
プロゼミのカリキュラム・コーディネーターの新雄太先生(左・現 東京大学大学院特任助教)と、道祖神の説明をされている特別講師の宮下健司先生(右・八十二文化財団理事)。
受講生全員でフィールドワークを行っている様子。何気ない事跡に秘められた歴史や物語を講義によって知り、新しい気づきと視点を得ました。
当時、火おこしはこのような素朴でありながらも、理にかなった方法で行われていました。実際に自分の手でやってみると、火を起こすことがいかに大変であるかを実感。昔の里山暮らしのワザの高度さ、山の生きる人々の身体を強さを伺い知り、驚きました。
"百聞は一見にしかず"
地域で生きることは、まさにこの諺通りの世界が拡がります。
日本人が長い時間をかけて築いてきた歴史と資産、地域の魅力と価値、そこに生きる人達の努力と工夫、そして、移住者達のチャレンジとジレンマのリアルな声と体験談がまとめられたのが本書です。
どのような立場の方が読んでも、新鮮な発見があると思います。
身にあまる思いですが、私も一部掲載いただいています。
P.139~148、植物・薬草のプロフェッショナルであり、駒ケ根の地域おこし協力隊の任期中は地元の無添加ドライフルーツの開発、任期後は県内の薬酒製造会社で活躍されている福冨岳さんとのクロスインタビューです。
以下、本書を読む上でのKeyとなる文章。林准教授と天野教授の言葉です。
本来、人間は何かを新しく得るよりも、一度得たものを失うこと(損失リスク)に対して抵抗感や危機感を持つことが知られている。これまでの蓄積・やり方を否定し、捨てることができない心理もこうした社会システムを維持させてきてしまった要因と言えるだろう。だからこそ、重要となるのは人の意識・考え方であり、その更新(アップデート)である。そして、意識変化ができた人々と一緒に次代を創っていくことを、私は「地方自治2.0」と表現している。これまで創り上げられてきたものの良いところを継承しつつも、時代に適応するために守るべきこと、捨てること、変えること、新しく創造することを考えられる人材を地域に生み出すことで、新たな地域社会・地域自治を生み出していくことを本気で考えているのである。これから紹介する「信州アカデミア構想」や「プロゼミ」は、この問題意識を「原点」として誕生したのである。
地域には素晴らしい人と資源があると思うが、土地に根ざし護り支えてきた「土の人」と、新たな発想や文化を持ちこむ「風の人」がともに手をたずさえて「風土」をつくる、これこそが地域を元気にする源ではないだろうか。
地域には、世の名利に奔走せず、地方の自治・維持に尽力する、無名の凄い人達が大勢います。プロゼミの講座を通じて、そういった方々とのご縁も頂きました。
人のつながり、これもまた何にも代え難い財産です。
最後に、今風に言えば、社会的イノベーターの先駆的巨人の言葉です。
山を動かす者も、まずは小石から始める。(孔子)
〔参考情報〕
➤地域戦略プロフェッショナル・ゼミ
➤信州アカデミア事業(COC事業)
(ここのえ店主)
明日の地域をみつける
更新:2019/03/18