自然豊かな環境で、読書を楽しむひとときを。
農・食・文化・芸術・科学をメインに揃えたKokonoe Green Libraryの書籍をご紹介いたします。
店内の蔵書は自由にお読みいただくことができ、お気に入りの書籍のお持ち込みもOKです。
伏流水が流れ、雄大な山々に囲まれた里山で、自分だけのひと時をお過ごしください。
Bon voyage!
本書は、わずか35歳でこの世を去った詩人、津村信夫が描いた叙情日誌です。
昭和15年に出版され、かな遣いや漢字は原文のままなので、本を開けば、時の流れを感じます。
津村信夫は、何度も戸隠を訪れ、豊かな自然と山に魅せられた一人。
病気で亡くなる前の年にも戸隠を静養で訪れ、長期滞在しています。
内容は、以下のように記されています。
私の「戸隠の繪本」は前にも述べたやうに、私のかりそめのノオトにすぎない。素より戸隠山紹介の意味はない、風土記の要素にも乏しい。風景人物の多くも、偶々私の觸目し得たもののみで、それらのすべてが、私のイメージを通したものであるのは云ふまでもない。
このように著者が戸隠滞在中に出会った村の人々との会話、里山の暮らしで見たもの・聞いたこと・感じたことが、日誌のような散文詩で書かれているのが本書の特徴です。
戸隠は、妙高戸隠連山国立公園の中に位置しているため、毎年多くの登山者やスキーヤー、バイカー、トレイルランナー、ハイカーの方々が訪れ、豊かな自然を満喫しています。
津村信夫もそういった自然を満喫した一人ではありますが、彼が求めていた自然は何なのでしょうか?
ヒントは収録されている章の「爐」にありました。
主人は最後に、お社のうしろで眞紅な鳥を見た さう云って話すと一息入れた
--もう話はみんなです 山がお氣に入りましたか
--もつと話して下さい 自然のことを
--さてなんだらう 自然と云へば 私共初め まるで木立のやうだで
--ああ さうです あなた方の あなた方の中にある自然を・・・
私たちも戸隠の自然に魅了されて移住しましたが、レジャーで単純に「楽しい自然」ではなく、「圧倒的な自然」に魅了されたといっても過言ではありません。
自然は、楽しく、時にはとても厳しいものです。特に、ここ戸隠ではそう感じます。
その厳しい中には、全てのものを育む母のような優しい自然も存在します。
これをどこの誰よりも体現しているのが、地元に住む方々なのです。
戸隠は、山岳信仰と修験道の聖地です。
なぜ人々が山を信仰し、自然と対峙し研鑽するのか?
それはあえて言葉にする必要はなく、戸隠を訪れ、リアルな戸隠に触れることで「感じること」なのかもしれません。
本書には、筆者が宿坊関係者や地元の人から見聞きした話が多く書いてあります。
故に、文中の場所の多くは現存しており、文中に出てくる人物の末裔がご存命のケースもあります。
収録された中に、「戸隠天狗」という話があります。
簡単に言えば、戸隠から市街地まで四里ほどの山道を走って約2時間で通っていた超人的な方のお話なのです
が、「天狗は◯◯さんちの人なんだよ」と、地域住民の方に教えてもらったことがあります。
文中に出てくる宝光社、火之御子社、中社、五祭神社、奥社などの神社は全て現存しています。
また、実名は出ていませんが、著者が訪れた宿坊など、造りが事細かに描写されていますので、宿坊が立ち並ぶエリアを散策しながら、文中の時代を想像し、「ここかな?」と推測するのも楽しいのではないでしょうか。
地元の方は、本書をご存知の方が多いので、これをきっかけにしてコミュニケーションしてみるのもアリだと思います。
戸隠にお越しの際は、本書をお読みいただき、また一味違った目線での旅行をお楽しみください。
(キッチン担当)
戸隠の絵本
更新:2019/03/06